2025年1月26日日曜日

介護保険シリーズ②【認定調査】

 私たちの周りには、年をとったり病気になったりして、日常生活に手助けが必要になる方がいます。

特に東京の下町エリアでは、高齢者の方が多く暮らしていらっしゃいますよね。そんな方々を支える制度として「介護保険」があります。

介護保険を利用するには、まず「どのくらい介護が必要か」を判定する必要があります。これを「要介護認定」と呼びます。

軽い方から「要支援1・2」、そして「要介護1~5」まであります。

最も介護が必要な「要介護5」の場合は、1日に110分以上の介護時間が必要と判断された方が該当します。

では、どうやって判定するのでしょうか?

まず、市区町村から調査員が自宅を訪問します(委託を受けた機関の認定調査員が訪問する場合もあります)。調査員はその人の生活の様子を詳しく確認し、マークシートに記入します。

例えば、「食事はご自分でできるか」「お風呂にお一人で入れるか」といった項目をチェックしていきます。このマークシートの内容は、とても重要な判断材料となります。

さらに調査員は、マークシートでは表現しきれない生活の様子や本人の状態を「特記事項」として詳しく記録します。

例えば、「手すりを使えば階段の上り下りができる」「日によって状態に波がある」といった具体的な状況です。この特記事項は、後の判定で大きな役割を果たします。

また、かかりつけのお医者さんからも意見書を出してもらいます。

このマークシートはコンピュータで分析され、「1日にどのくらいの介護時間が必要か」を計算します。これを「1次判定」と呼びます。

例えば、1日に25~32分の介護が必要な場合は「要支援1」、32~50分必要な場合は「要介護1」というような具合です。更に最も重い要介護5の場合には1日に110分以上という基準になります。

このコンピューター判定は、全国どこでも同じ基準で判断できる重要な仕組みとなっています。

意外に思われるかもしれない例として、末期がんで余命が短いと診断された方でも、日常生活が自分でできる場合は、軽い判定になることがあります。

これは、この制度が「どれだけ介護の手間がかかるか」を基準にしているからです。

最後に、専門家たちが集まる「認定審査会」で、コンピュータの判定結果と医師の意見書、そして調査員が記録した特記事項を総合的に検討しながら、最終的な判定を決めます。これを「2次判定」と呼びます。

このように、要介護認定は、その人にどのくらいの介護が必要かを、公平に判断するための大切な仕組みなのです。この判定結果によって、利用できるサービスの内容や量が決まってきます。


株式会社中央ケアサービス エールハート小岩 山本大勝

2025年1月11日土曜日

介護保険シリーズ①【成り立ち】

2,000年、平成12年は思い出深い年です。介護保険制度が始まった年なんですね。


介護保険制度が必要とされた背景には、日本の高齢化の進展と家族構造の変化がありました。急速な高齢化により、介護を必要とする高齢者が増加する一方で、核家族化の進行や家族の世帯員の就労率の向上(女性の就労の増加)、社会進出により、家族だけで介護を担うことが困難になってきていました。

それまでの措置制度では、行政が必要量を決定する仕組みでした。

具体的な事例を挙げると、要介護状態の高齢者がいる家庭が福祉サービスを受けたい場合、まず行政に申請し、行政が家庭の状況を判断して、サービスの内容や量を決定していました。

例えば、「週2回のデイサービスが必要」と判断されれば、利用者はその回数や施設を選ぶことができず、行政が指定したサービスを受けるしかありませんでした。

行政が、Aデイサービスに行ってください、と指定されていたのです。

また、行政の判断基準が地域によって異なることもあり、サービスの地域格差も問題となっていました。

さらに、今でこそ個性豊かなデイサービスがたくさんあります。リハビリデイサービス、外出支援デイサービスなどなど。

措置制度の頃のデイサービスは市場競争がなかったために、よくも悪くも「どこも同じサービス内容」になりがちでした。

こうした課題を解決するため、日本はドイツの介護保険制度を参考に、医療保険、年金保険、労災保険、雇用保険に次ぐ「5番目の社会保険」として介護保険を導入しました。

新制度では、利用者自身がサービスを選択できるようになりました。

例えば、要介護認定を受けた後、「月曜日は訪問介護、水曜日と金曜日はデイサービス」というように、複数のサービスを組み合わせて選べるようになりました。

また、サービスを提供する事業者も自由に選べるようになり、より自分に合ったケアを受けることが可能になりました。

しかし、介護保険制度にもデメリットがあります。

一つは、利用者の自己負担(1割~3割)が発生することです。

措置制度時代は低所得者の場合、費用負担がほとんどありませんでしたが、介護保険では所得に関係なく負担が必要となります。

また、介護サービスの利用に上限(支給限度額)が設定されており、必要なサービスが十分に受けられない場合もあります。

上限を超える場合には、完全に10割負担のサービス利用となります。

介護保険の重要な理念である「介護の社会化」により、それまで家族が抱え込んでいた介護の負担を、社会全体で支えていく仕組みが整備されました。

サービスの質の向上や選択の自由度が高まった一方で、介護人材の不足や地域によるサービスの格差、保険料の上昇などの新たな課題も生まれています。

長くこの業界にいると、措置制度の頃は良かった。

なんて言葉をたまに聞きますし、確かに上記のようにそういう側面もあります。

それは、自己負担であったり支給限度額という概念により国民に縛りがかかった状態にある、事に対して思うことが多いです。

「今月は治療をたくさんしたので、これ以上の治療は自費になります」という病院はないでしょう。

しかし、総合的に今の社会保障をみると、やはり介護保険制度以後の方が国民にとって、より自由な、より健全な社会保障担ったのではないか、と思えます。


株式会社中央ケアサービス エールハート小岩 山本大勝

2025年1月1日水曜日

あけまして、おめでとうございます。2025年!

あけまして、おめでとうございます。


2025年から「も」、介護の仕事を取り巻く環境が大きく変わります。厚労省、国が定めた新しいルールによって、介護の現場では今までより多くの仕事が増えることになります。

例えば、介護記録、研修記録、事業所運営の規定をより細かく記録&実践することが必須になったり、職員全員が受けなければならない研修が増えたりします。

一見、これらは面倒な仕事に思えるかもしれません。でも、この記録や研修が、実は利用者さんの暮らしを良くすることにつながっているのです。

具体的な例を考えてみたいです。

訪問介護を利用している田中さん(85歳仮名)は、最初は「人に迷惑をかけたくない」と言って、ホームヘルパーの手伝いを断っていました。ケアマネジャーの山田さん(仮名)は、田中さんの謙虚で力強い気持ちを汲みながら話し合いを重ねました。

訪問ごとに山田さんは、田中さんの面接での場面を細かく経過記録に書き込みました。そして訪問介護事業所のサービス提供責任者へ、伝えました。その温かな記録は、サービス提供責任者から他ホームヘルパーへと生きた言葉で伝達されていきます。

「好きな野球の話をすると表情が明るくなる」

「右手は少し動かしにくそうだが、左手はしっかり使える」

といった具合です。

なぜ人に迷惑をかけたくないと頑なに断っていたのかを、ケアマネジャーの山田さんは考えました。そして、いつ断っても良いから、一緒にやってみよ!と訪問介護が始まることになります。

ケアマネジャーとホームヘルパーの支援チームは、この山田さんの記録をチーム全体で共有し、話し合うことで、田中さんへの関わり方を検討しました。

野球の話をしながらさりげなく声をかけ、関係性を築きながら左手でもできることの多さを、ホームヘルパーは自分の体を使い田中さんに伝え続けました。

「左手だと、じゃがいもがこんなに不格好になっちゃった」と、田中さんとホームヘルパーは笑い合います。

その結果、田中さんは「こんな風に食事ができるなら、手伝ってもらってもいいかな」と考えを変えてくれました。

次の月、ケアマネジャーの山田さんに、田中さんは自分の暮らしが変わったことを誇らしげに話しました。山田さんにとって、初めて見る田中さんのイキイキとした笑顔でした。


また、認知症ケアの研修を受けた後、職員の対応も変わりました。

訪問介護を利用している佐藤さん(78歳仮名)は、長年続けてきた掃除が認知症の進行で難しくなっていました。研修で学んだ「その人の残された能力を活かす」という考え方を基に、訪問介護サービス提供責任者の中村さん(仮名)は支援方法を工夫しました。

例えば、掃除の道具の配置を決まった場所に固定する、拭くだけの単純な掃除を一緒にする、達成感が得られるようカレンダーにマークを付けるなど、研修で学んだことを実践したのです。

その結果、佐藤さんは「自分でまだできることがあって嬉しい」と、意欲を取り戻されました。


このように、記録をつけることで利用者さんの小さな変化に気づき、職員全員で支援方法を考えることができます。また、研修で学んだ知識は、利用者さん一人一人の「できること」を伸ばすヒントになります。

確かに、記録や研修に時間をとられることは大変です。でも、これらは単なる義務ではありません。利用者さんの「その人らしい暮らし」を支えるための大切な道具なのです。

だからこそ、忙しい毎日の中でも、時々は「私たちは誰のために、何のために働いているのか」を考える余裕を持ちたいものです。記録を書く時も、研修を受ける時も、その先にいる利用者さんの笑顔を思い浮かべながら取り組んでいきたいですね。

新しい制度や仕事の増加は確かに負担になります。でも、それらを活用することで、より良い支援ができるようになる。そう考えれば、前向きに取り組んでいけるのではないでしょうか。


最後に、これら記録や研修、事業所運営に関する企画など、それらの準備をする人の存在があります。担当になるということは負担であり、重荷になるかも知れません。

しかし、それらの経験を通じて最も学べるのは、記録を読む人でなく、研修に参加している人ではなく、事業所運営の説明通りにきちんと守る職員でもなく、

記録を書いた人、研修や事業所運営を企画した、その人自身が最も成長できるのです。


今年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。


株式会社中央ケアサービス エールハート小岩 山本大勝

支援者として「自由」の範囲を明らかに

  日頃思うのですが、私たちが自由に選択できるのは「行動」だけです。 そしてその行動が望む結果に結びつくかどうかは、必ずしも確実ではありません。 ご利用者支援を考えると、この不確実さこそが、より良い支援への可能性を開いているとも言えます。 支援者として「素直さ」を持つこと、 つま...